中小企業の「大廃業時代」がやって来た
皆様ご承知のとおり、日本の企業のうち、99.7%が中小企業です。
従業者数を見ても、中小企業の従業者が約7割を占めます。
中小企業は日本の経済や雇用、生活を支えている存在なのです。
そのような中小企業が今、「大廃業時代」を迎えようとしていることを皆様はご存知でしょうか?
廃業ラッシュが訪れると言われている大きな要因の一つは、経営者の高齢化にあります。
1995年頃には40代後半の経営者が最も多かったという調査結果がありますが、2015年には66歳前後の経営者が最も多くなっています。
最近の中小企業経営者の平均年齢も62歳前後という数値になっており、今後もさらに高齢化が進む見込みです。
経営者の平均引退年齢は70歳前後と言われているため、今後10年近くの間に大量の経営者が引退し、「大廃業時代」が訪れると危惧されています。
2015年には、現状を放置すれば、2025年頃までの10年間で、約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われるという推測もなされました。
このような中小企業の大廃業を回避するため、昨今注目されているのが「事業承継」です。
「事業承継」とは、会社を親族や従業員に引き継ぐことや、M&Aなどの方法で他企業へ引き継ぐことにより、事業の全部又は一部を他者へ引き継ぐことをいいます。
適切な事業承継を行うことにより、その中小企業が持っている技術やノウハウ、人材、資産などを失わせることなく、次世代においても活かすことができます。
事業承継は経営者だけの問題ではない
事業承継は、経営者だけが考えればいい問題ではありません。
事業を引き継ぐ後継者も、どのように事業を引き継ぐのか、当然ながら考える必要があります。
事業承継完了後は、現経営者ではなく、後継者が事業を継続していくわけですから、むしろ後継者こそ事業承継の内容に関心を持つべきとも言えるでしょう。
前述のとおり、中小企業の大廃業によって多くの雇用が失われるわけですので、従業員にとっても大きな問題です。
長年勤めてきた会社が廃業になり、仕事を失うことになってしまうのです。
仮に、他の会社で働けるようになったとしても、それまで培ってきた仕事の技術やノウハウを活かせないかもしれません。
取引先の企業にとっても他人事ではありません。
大口顧客であった企業が廃業になれば、大きな痛手となります。
このように、中小企業の廃業は、様々な人々に大きな影響を及ぼします。
事業承継は時間をかけて準備を進めることが鍵
事業承継の方法は大きく分けて、①親族への承継、②親族外の従業員等への承継、③他企業への売却(M&A)の3つがあります。
いずれの方法をとる場合であっても共通して言えるのは、時間をかけて準備を進めることが重要であるという点です。
イメージとしては、経営者の方は50歳を超えたら事業承継のことを考え始め、60歳前後には具体的な準備を開始するのが望ましいです。
早い時期から準備をしなければならない理由はいくつかありますが、まず、方針の検討に時間がかかるということが挙げられます。
経営者の意向に沿って方針を決めればよいと思われるかもしれませんが、法律の面や税金の面からすると、その方針は間違ったものかもしれません。
したがって、専門家に相談しながら、時間をかけて方針を検討する必要があります。
また、方針を決定しても、その後事情が変わり、方針を変えなければならない可能性もあります。
例えば、長男に会社を継がせようと思い、当初は長男もその気になっていたものの、その後、些細なことから親子喧嘩になり、長男が会社を継がないと言い出せば、計画は頓挫します。
計画を再び練り直すということになれば、時間がさらにかかることになります。
さらに、事業承継の手続きを完了した後も、時間をかけて引き継ぎ業務を行わなければならないこともあります。
例えば、これまで別の業界で働いていた子を後継者とする場合、子を代表取締役などとする手続きを完了したとしても、その日から子に会社の経営を全面的に任せることができるでしょうか?
手続きを完了させれば全て終了というのではなく、親が見守りながら引き継ぎを行う時間が必要でしょう。
このように、事業承継の円滑な実行には、じっくりと時間をかけることが必要になります。
そのため、早い時期から会社の将来のことを考え始め、実際に準備を進めることが重要になるのです。
まずは現状と自分の意向を整理することが出発点
それでは、事業承継の準備をすると言っても何から始めればいいのでしょうか。
まずは現状を把握した上で、自分の意向を整理することが出発点といえます。
現状の把握というのは会社の経営状況だけを把握すれば良いのではなく、株主や関係者、後継者候補の把握、さらには、経営者個人の資産や相続人となる予定の人物の把握も含まれます。
これらを把握した上で、経営者である自分がどのような希望を持っているのか、改めて整理することが大切です。
希望の方針は一つでなければならないわけではなく、複数の方針を考えておくのも良いです。
なお、中小企業庁のホームページなどでは、現状や意向の把握に役立つチェックリストが掲載されていますので、これらの整理の際には活用すると良いでしょう。
会社の経営状況などによっては、事業承継を行うのではなく、廃業を選択するのが適切という結論に達することもあるかもしれません。
大切なのは結論ではなく、専門家等に相談しながら時間をかけてしっかりと検討し、準備をすることです。
しっかりと対策をすることが、経営者自身のためになるばかりでなく、会社の従業員、経営者の家族、取引先、さらには日本社会のためになるのです。
当事務所では、企業の事業承継に関するご相談を承っております。
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