遺産分割手続きがスムーズに進まない原因
「争続」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
「争族」とは、遺産分割の話し合いが上手くいかず、相続手続きが紛争化してしまったことを言います。
もっとも、遺産分割がスムーズに進まないのは、「争族」という紛争化したようなケースだけとは限りません。
争っているわけではないのに遺産分割が進まない、遺産分割が終わっていないというケースも多くあります。
例えば、次のようなケースが考えられます。
①相続人が疎遠、遠方、高齢
仲が悪いわけではないものの、他の相続人と疎遠になっていたり、他の相続人が遠方に住んでいたりするため、遺産分割がなかなか進まないというケースは多くあります。
また、相続人も高齢で施設に入っているなどの状態にあり、遺産分割の手続きを進めることが困難ということもしばしばあります。
特に相続人が兄弟である場合は、亡くなった被相続人と年齢があまり変わらないため、相続人がかなり高齢の方ばかりという状況になりやすいです。
さらには、相続人の中に認知症などで判断能力が著しく低下している方がいる場合、その方が遺産分割の手続きを行うことはできません。
その方の代わりに遺産分割手続きを行ってもらうため、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらう必要があります。
②相続人が多数
相続人が多すぎて話がまとまらないということも多くあります。
例えば、遺産分割ができないまま数年、あるいは数十年が経過したところ、その間に相続人も亡くなり、新たな相続人がどんどん増えていったということはよくあるケースです。
相続人が何十人もの人数になれば、遺産分割の協議を進めることはかなり難しくなるでしょう。
③簡単に分けられない遺産がある場合
例えば、遺産の中に不動産がある場合、相続人間でスムーズに分け方を決められないことがよくあります。
自宅不動産の分割についての協議が難航することは多くありますし、アパートなどの収益物件もあるとなれば遺産分割協議はさらに複雑になります。
遺産分割を進めるための方法
以上のような事情で遺産分割をなかなか進められない場合、どうすればよいでしょうか?
考えられる手続きとしては、家庭裁判所での調停という手続きがあります。
これは、家庭裁判所で遺産分割に関する話し合いをする手続きです。
調停では、相続人らが面と向かって直接話し合うのではなく、裁判所の調停委員という方々に間に入ってもらい、調停委員を通じて話し合うという形をとります。
調停でも話し合いがまとまらないということになれば、審判という手続きに移行し、裁判所が遺産分割について決定を下すことになります。
したがって、審判になる可能性を考慮し、調停においても有効な主張立証をすることを検討するのが望ましいです。
そのため、遺産分割調停を行うのであれば、弁護士を代理人として立てることを検討されることをお勧めします。
また、相続人間での協議は進まないが、専門家が介入すれば協議がスムーズに進む見込みが大きい場合、調停を使わずに、弁護士に代理人として協議を行ってもらうことも可能です。
なお、遺産分割協議や調停に関して相続人の代理人になることのできる専門家は弁護士だけです。
事前対策を考えるのであれば遺言書や家族信託の活用を
前述のとおり、争いがある場合はもちろんのこと、大きな争いが無くても遺産分割が進まないということは多くあります。
そこで、考えられる事前対策としては、やはり遺言書の活用です。
しっかりとした遺言書があれば、遺言者の意思が明確に示されることにより、相続人間での遺産分割がそもそも不要になります。
また、遺言書の内容どおりに手続きを進めてくれる遺言執行者を弁護士などの専門家に依頼しておけば、相続の手続きはさらにスムーズなものなります。
他に考えられる事前対策としては、昨今話題になっている「家族信託」の活用です。
家族信託とは、財産の管理や処分を信頼できる家族に託す契約です。
この家族信託には、財産管理を家族に託す機能だけでなく、本人が亡くなった後の財産の帰属先を決める遺言代用機能を持たせることも可能です。
遺産分割の長期化は相続人にとって大きな負担となりかねません。
そのような負担が発生しないように、できる限り遺言書や家族信託などの事前対策を検討しておきましょう。