※2024年6月現在の法律に基づくコラムです。
相続に関連する様々な期間制限がある
相続の発生後、遺産分割協議をすることなく長期間が経過しているという事案をしばしば見かけることがあります。
確かに遺産分割をすること自体には時効はありません。長期間が経過した後であっても遺産分割協議をすること自体は可能です。
しかしながら、手続きを放置することにより様々な不利益を被るリスクがあります。
その理由として、まず、遺産分割自体に期間制限はなくとも、以下のような相続に関する様々な期間制限が設けられていることが挙げられます。
①相続放棄
借金を相続したくないなどの理由で相続放棄を希望する場合、原則として相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄の申述をしなければなりません。
②相続税の申告
相続財産等が基礎控除額を超えて相続税の申告が必要となる場合、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告をしなければなりません。
③遺留分侵害額の請求
遺言書や生前贈与により自分の遺留分が侵害されている場合、遺留分侵害額の請求をすることができますが、相続開始と侵害の事実を知った時から1年間行使しないときは、時効によって請求権が消滅してしまいます。
相続開始の時から10年を経過した時も、同様に消滅してしまいます。
④相続登記の義務化
令和6年4月1日から不動産の相続登記が義務化されたため、相続により不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
また、遺産分割により不動産を取得した相続人は、遺産分割成立から3年以内に相続登記をしなければなりません。
⑤不当利得返還等の請求
例えば、被相続人の生前に相続人の一人が被相続人の預貯金を私的に流用していたことなどを主張したい場合、不当利得返還請求という法律構成を取ることが考えられますが、私的流用を知った時から5年が経過するなどした場合には時効により請求できなくなってしまいます。
⑥特別受益や寄与分の主張
相続法の改正により、特別受益や寄与分の主張についても期間制限が設けられました。
原則として相続開始から10年が経過すると、特別受益や寄与分の主張ができなくなります(もっとも、令和5年4月1日からしばらくの間は経過措置があるなど、例外もあります)。
時間の経過と共に状況が変化し、協議がより難しくなる
前述のとおり、相続に関わる様々な期間制限に注意しなければなりませんが、遺産分割を放置してはいけない理由は他にもあります。
それは、放置して時間が経過すると、状況が変化し、遺産分割の協議をすることがより困難になる恐れがあるということです。
例えば、子のいない被相続人が死亡し、当初は兄弟3人で遺産分割協議をすればよかったというケースを考えてみます。
時間の経過と共に相続人となっていた兄弟も死亡した場合、その妻や子らなどが新たに遺産分割協議に加われなければならなくなります。
つまり遺産分割協議書に署名押印しなければならない人数がどんどん増えて行く恐れがあるのです。
また、相続人の一人が高齢となり、認知症になったため、自ら遺産分割に参加できなくなるという事態が発生することも考えられます。
この場合、この相続人の代理人となってもらう成年後見人の選任を家庭裁判所に対して申し立てなければならなくなります。
さらに、相続人の一人が行方不明になるというようなことも実際にあります。
この場合、家庭裁判所に対して不在者財産管理人という者の選任を申し立てなければならなくなります。
放置せずに相続手続きの対応をすることが重要
以上のとおり、相続手続きや遺産分割を放置することにより、主張できたはずのことを主張できなくなるリスクや、手続きが非常に煩雑になってしまうリスクが生じます。
したがって、相続が開始した場合には、相続手続きを放置することなく遺産分割などの対応を進めていくことが重要になります。
そして、当事者同士では遺産分割を進めることが困難な場合、そのまま手続きを放置するのではなく、弁護士へ相談してみることをぜひご検討ください。